それ、本当に「感じていない」だけ? 無意識のフィルターが感覚を選んでいる話

五感と暮らし

旅行から戻ってきたとき、自宅の玄関に一歩入った瞬間、「この匂い、うちの匂いだ」と感じたことはありませんか?
ふだんはまったく気づかなかったその香り、実はずっとそこにあったのに、脳が“感じないようにしていた”だけなのかもしれません。
それは単なる「慣れ」ではなく、五感にかけられた“無意識のフィルター”によるものです。
最近では、こうした脳の選別機能が心や感覚にどのような影響を与えているかに注目が集まっています。
見えていても見えていない、聞こえていても聞こえていない。私たちは、どれだけの感覚をすり抜けて生きているのでしょうか。
この見えないフィルターの正体に、そっと目を向けてみませんか。

匂いはあるのに感じない? 嗅覚が慣れる脳の仕組み

同じ空間にいるのに、
ある瞬間から何も感じなくなる不思議

お気に入りの香水や、朝のパンの香り。最初はしっかり感じていたはずなのに、しばらくすると消えたように感じることがあります。
それは香りそのものが消えたのではなく、脳がその情報を拾わなくなったからかもしれません。

この現象は「嗅覚順応」あるいは「感覚の鈍化」と呼ばれており、最近、脳科学や感覚の研究分野でも注目されています。

脳は五感の“すべて”を受け取っていない

脳は必要な情報だけを選び、 その他はシャットアウト

人の脳は、五感から入る膨大な情報すべてを処理することができません。
そのため、「今、自分に必要な刺激」だけを選び、それ以外の情報は無意識のうちに切り捨てているのです。

  • 代表的な感覚の順応現象
    • 同じ香りに慣れてしまう「嗅覚順応」
    • 時計や冷蔵庫の音が気にならなくなる「聴覚の順応」
    • 視界の一部に“気づかない”こともある「視覚のフィルター」

これらの現象は、脳がエネルギーを節約しながら効率的に働いている証といえるでしょう。

「あるのに感じない」理由と、脳の安全管理システム

危険がなければ「見なくていい」
「聞かなくていい」

脳のフィルターは、もともと命を守るために発達した仕組みです。
同じ刺激が繰り返され、それが自分にとって害のないものと判断されると、脳はその情報を認識しなくなるのです。

  • こんな経験はありませんか?
    • 冷蔵庫のモーター音が気にならなくなる
    • 大通りの雑音を気に止めることなく、通りを歩く
    • つけている香水が自分では分からなくなる

無意識のうちに、脳は感覚の「優先順位」を決め、刺激を取捨選択しているのです。

感じていないのに、実は影響を受けているかもしれない

フィルターの向こう側でも、
脳や身体は反応している

「もう慣れたから大丈夫」と思っていても、脳や身体はその刺激の影響を受け続けていることがあります。

  • 実際の例
    • 強い香りの空間に長時間いたときに起きる頭痛
    • 無意識に聞いている音がストレスになる
    • 「聞こえていないのに疲れる」状態が起こる理由

感じていないように思えても、私たちの脳は静かに、しかし確実に刺激を受け取っているのです。

無意識のフィルターを知ると、感覚にやさしくなれる

自分の感覚を整えるには、
まず“気づく”ことから

五感は単なるセンサーではなく、脳とつながった“選択的な窓”です。
すべての情報を受け取ることはできないからこそ、いま感じていることに気づくことが、自分の状態を整える第一歩になります。

  • 五感とやさしく向き合うためのヒント
    • 「いつもあるもの」を改めて見つめ直す習慣
    • 音や香りを意図的に遮断・切り替える時間を持つ
    • 五感をリセットする「無感覚の時間」を設けてみる

無意識のフィルターを意識してみることで、今の時代をより心地よく過ごす工夫が見えてくるはずです。

感じる力に、もう一度目を向けてみる

「無感覚の中に生きること」
が続くときの危うさ

匂いがしない、音が気にならない。そんな状態は一見便利に思えるかもしれません。
しかし、何も感じないことが、心や体に影を落とすこともあります。

だからこそ、意識的に「感じる時間」をつくってみませんか?
たとえば、小さな香りや音に立ち止まってみること。
その瞬間、自分の心の動きに気づけることもあるのです。

無意識のフィルターに頼りすぎず、ときにはフィルターの外の世界にも目を向けていきたいものです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました