くるくると絡み合い、どこまでも伸びていく植物のつる。その有機的な曲線から生まれた「唐草模様」は、懐かしさと縁起の良さをあわせ持ち、日本人の暮らしの中に静かに根づいてきました。風呂敷や文様に込められた想いをたどると、過去と未来をやわらかくつなぐ知恵が見えてきます。
つるが紡ぐ縁起文様のルーツ

唐草模様の起源は
シルクロードの旅路から
唐草模様は古代エジプトやギリシャの植物文様に起源があると言われています。シルクロードを通って中国に伝わり、やがて日本へ。日本では平安時代から装飾文様として使われ、次第に独自の意味が加わっていきました。
「繁栄」「長寿」「つながり」の象徴に
唐草模様の植物のつるは、どこまでも伸びていくことから「繁栄」や「長寿」の象徴とされてきました。また、途切れず続く模様は「ご縁」や「人とのつながり」のイメージとも重なります。模様そのものが祈りの言葉のように使われてきたのです。
風呂敷とともにある“包む”文化

奈良から江戸へ、生活に根づく風呂敷
風呂敷の原型は奈良時代の「つつみ布」にさかのぼります。江戸時代には銭湯で衣類を包む「風呂敷」として広まり、贈り物や荷物の持ち運び、収納などにも重宝されていきました。
包むことは思いやりを表す手段
風呂敷は単なる布ではありません。相手を思い、ものを丁寧に包むという所作には、日本人ならではの優しさや心遣いが込められています。唐草模様が描かれた風呂敷には、「巡る命」「つながる願い」など目には見えない気持ちがそっと添えられているようです。
文様に込められた意味と願い

「麻の葉」や「鶴」「亀」
などの縁起柄
風呂敷に使われる文様には、唐草模様のほかにも多くの縁起柄があります。「麻の葉」は赤ちゃんの健やかな成長を願う模様で産着にも多く使われてきました。「鶴」や「亀」は長寿や吉兆の象徴として定番です。
ご縁と平和を願う模様たち
七宝(しっぽう)は円形が繰り返される模様で、人とのご縁や調和を表します。青海波(せいがいは)は広がる波のような形で、平和や未来への幸せを願う文様。亀甲(きっこう)は六角形の形で安定や厄除けの意味もあり、贈り物にもよく用いられています。
“泥棒柄”の印象はどこから?

昭和のドラマや漫画がつくったイメージ
唐草模様の風呂敷を見ると「泥棒が背負っていた風呂敷」を思い出す方もいるかもしれません。これは昭和時代のテレビや漫画で、泥棒が唐草模様の風呂敷に道具を包んで逃げる姿が定番として描かれていた影響です。
当時の生活感がリアルさを増した
唐草模様の風呂敷は当時どの家庭にもあり、非常に身近な存在でした。だからこそ、盗んだものをそれで包むという設定が“リアル”に感じられ、印象に残ったのかもしれません。本来は縁起の良い文様でありながら、どこか親しみやすい“キャラクター”のような存在になった背景には、日本人の遊び心もあったのではないでしょうか。
風呂敷はサステナブルな暮らしの味方

エコバッグ以上の使い道がある布
近年は脱プラスチックやサステナブルなライフスタイルへの関心が高まり、風呂敷が再び注目を集めています。たった一枚の布が、バッグ、ラッピング、敷物と自在に変化する機能性の高さは「持たない暮らし」にぴったりです。
唐草模様が“レトロで新しい”と再評価
唐草模様の風呂敷も「かわいい」「レトロで個性的」と若い世代から人気が再燃中です。
例えば――
・ノートパソコンやお弁当を包んで持ち運ぶ
・ペットボトル2本をまとめて包む即席バッグ
・贈り物のラッピングに使って、おしゃれでエコな演出
さらに、“Furoshiki”として海外でも注目されており、サステナブルな日本文化の一つとして広がりを見せています。
模様が語り継ぐ日本らしさ

暮らしの中にある「つながり」への願い
唐草模様には、ただ装飾としての美しさだけでなく、人との縁や自然とのつながり、めぐる命への敬意が込められています。日々の暮らしの中で使っていくうちに、それが自然と伝わっていくのかもしれません。
古くて新しい、やわらかな知恵
伝統とは決して過去に閉じ込められたものではなく、今の暮らしの中に息づく知恵でもあります。唐草模様の風呂敷を日常に取り入れてみることで、何気ない日常が少し豊かに、少し優しく感じられるかもしれません。
唐草模様とともに、想いを包む

あなたが誰かのために包む瞬間、そこにはきっと「伝えたい気持ち」があります。風呂敷は、その気持ちをそっと受け止めてくれる道具です。唐草模様とともに、つながりのある暮らしを楽しんでみてはいかがでしょうか。




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