朝起きてから夜眠るまで、「何時に」「何分に」と数字に囲まれて暮らしていませんか。目覚まし時計の音で目を覚まし、スマートフォンで予定を確認し、分刻みのスケジュールをこなす――多くの方がそうした生活に慣れていることでしょう。
もし明日すべての時計が消えたら、どのように一日を過ごすのでしょうか。時間が存在しない生活では、陽が昇れば始まり、陽が沈めば終わる。風の流れや鳥の声が、行動のきっかけになるかもしれません。
「時の記念日」とは

時を大切にする日として定められた理由
6月10日は「時の記念日」とされています。その由来は、西暦671年に日本で初めて「漏刻(ろうこく)」と呼ばれる水時計が用いられたという記録にあります。これは天智天皇の時代のことで、その様子は『日本書紀』にも記されています。
この出来事にちなみ、大正9年(1920年)には、時間を大切にする暮らしを広めようと「時の記念日」が制定されました。かつては学校などでも「時間を守る心」を学ぶ機会とされてきましたが、近ごろはあまり話題に上らなくなっているようです。
時計がない暮らしを想像してみる

管理されない「自然時間」の心地よさ
「もし時計がなかったら?」という問いは、慌ただしい日々を過ごす私たちにとって、新鮮な気づきをもたらしてくれます。
便利なはずの時間管理が、気がつけば私たちを縛っている――そう感じる方も少なくないのではないでしょうか。
朝食や昼食の時間をお腹の空き具合で決める。仕事や家事も、自分の心と体のリズムに合わせて進める。そうした「自然時間」による暮らし方は、時計に追われる感覚をやわらげてくれます。
「時計を見ない時間」が心に与える効果

ストレスが減り、心と体が整う
キャンプや登山、離島での旅などで心がほぐれる理由のひとつに、「時計を見ない時間」があります。
人は本来、太陽の動き、風の音、虫の声といった自然のサインを頼りに暮らしてきました。そのような生活リズムに身を委ねることで、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が抑えられたり、睡眠の質が向上したりすることが、いくつかの研究でも示されています。
「時計を見ない時間」は、心と体を整える大切な時間でもあるのです。
暦とともに暮らすという知恵

二十四節気・七十二候
から学ぶ時間の感じ方
時計に頼らず、季節の移ろいを感じる方法もあります。たとえば、昔から伝わる「二十四節気(にじゅうしせっき)」や「七十二候(しちじゅうにこう)」に目を向けてみるのはいかがでしょうか。
「小暑(しょうしょ)を過ぎたころ」「霜降(そうこう)の候」といった暦のことばに耳を傾けると、風や虫の音、空の色が「今この時」を教えてくれることに気づかされます。
夜が明けるころ、鳥のさえずりとともに目を覚まし、日が暮れればゆっくりと家事の手を休める――。
そんな自然のリズムに寄り添った暮らしは、心にやさしい余白を生んでくれます。
忙しさのなかに、時計を見ないひとときを

「効率」よりも
「手放す」選択をしてみる
多くの方が「時間を効率よく使いたい」「もっと時短で暮らしたい」と願い、「時短家事」や「スケジュール管理術」などの方法を探しています。
こうした工夫は日々の助けになりますが、実は“効率”ばかりを追いかけることで、かえって心が疲れてしまうこともあります。
そんなときには、「効率化」ではなく「少し手放してみる」ことが、心を整える助けになるかもしれません。
たとえば、一日15分だけスマートフォンを見ない時間をつくる。週末に1時間だけ時計を外して過ごしてみる。
それだけでも気持ちが落ち着き、「時間の流れを感じる力」が少しずつ戻ってくるのです。
時間は「寄り添うもの」

「使う」から「共に生きる」へ
時間は道具として「使う」ものではなく、自然とともに「寄り添う」ものです。時間に追われて生きるのではなく、調和をもって時間と共に暮らすことで、人生の輪郭もやわらかく映ってくるのではないでしょうか。
6月10日の「時の記念日」、ふだん意識することの少ない「時間」との向き合い方を見つめ直してみましょう。
時計のなかった時代、人びとは空を見上げ、風を感じて日々を暮らしていました。そんな静かな時間の感覚に、そっと耳を澄ませてみたいものです。




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