ADHD(注意欠如・多動症)は、子どもだけでなく成人にも見られる発達特性のひとつです。一方、認知症は高齢期に進行する脳の変性疾患として知られております。近年、これら異なる時期に見られる二つの脳の状態に、共通する認知機能の特徴があることがわかってきました。ADHDと認知症がどのように関わるのかを、最新の研究や医学的知見に基づいて理解を深めていきましょう。
ADHDとは?

ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は「注意欠如・多動症」と訳される発達特性のひとつです。主に、次のような3つの特徴がみられます。
• 不注意:集中力が続きにくく、うっかりミスや忘れ物が多くなります。
• 多動性:じっとしていることが苦手で、手足を動かしたり、場にそぐわない発言や行動が見られることがあります。
• 衝動性:思いついたことをすぐに言葉や行動に移してしまい、周囲とのトラブルにつながることもあります。
これらの特徴は一人ひとり異なり、いずれか一つが目立つ場合もあれば、複数が同時に見られる場合もあります。
ADHDにおける注意と実行機能の障害

不注意と記憶力の問題
ADHDの方は、注意の持続が難しく、情報を一時的に記憶する「ワーキングメモリ」に課題を抱えることも多く見られます。この機能は、日々の生活や対人関係において重要な役割を果たしており、認知症の初期症状で見られる物事をすぐに忘れてしまったり、人との約束を思い出せなかったりすることと、認知症のはじめのころに見られる物忘れと似ているところがあります。
実行機能の低下
ADHDでは、物事の段取りを考え、行動を切り替える「実行機能」が弱いとされております。この機能は、前頭葉と深くかかわっており、認知症の中でもとくに前頭側頭型認知症(FTD)では同様の機能が損なわれることが報告されています。
ADHDと認知症リスクとの関係

長年の研究が示す可能性
注意機能の障害が持続するADHDの方において、加齢とともに認知機能の衰えが一般より早まる傾向が見られるとの報告があります。ある研究では、ADHDを抱える中年期の成人では、軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー型認知症の発症率が、ADHDを持たない人と比較して高い傾向が示されています。
この注意の特性が加齢による認知機能の低下と重なり、早期の物忘れや判断力の低下につながる可能性が指摘されています。重要なのは、本人や周囲が「ただの老化」と見過ごさず、適切な支援や医療につなげることが大切です。
二次的要因の重なり
ADHDの方には、うつ病や不安障害に加えて、高血圧や糖尿病といった生活習慣病を併発する例が多く見られます。これらの疾患は脳の血流を妨げ、認知症のリスクを高める要因となることがあります。また、睡眠障害や社会的孤立も、ADHDと認知症の進行に深く関わることが指摘されています。
早期の対応が鍵となる

脳の健康を保つ工夫
ADHDの方が認知機能の低下を予防するためには、生活習慣の改善、適切な治療、周囲の理解と支援が不可欠です。とくに規則正しい睡眠、バランスの取れた食事、社会参加などは、脳の健康を保つうえで効果があるとされています。
認知症との違いを正しく理解する
ADHDと認知症では、症状の表れ方や進行の仕方が異なります。認知機能の低下を感じた場合は、自己判断に頼らず、医師や専門機関に相談することが望ましいでしょう。
注意機能や記憶の変化に
気づくためのセルフチェック
以下のような変化が続いている場合には、注意機能の低下や記憶の変化が関与している可能性があります。
- • 最近、人との約束を忘れることが増えた
• 会話の途中で話題を忘れてしまう
• 複数の用事を同時に進めることが難しくなった
• 慣れた場所で道に迷いかけたことがある
• 急に感情が不安定になることがある
これらの変化は、ADHDの特性として見られることがありますが、認知症や軽度認知障害の初期にも共通して見られるため、注意が必要です。
これらに複数当てはまる場合には、専門医への相談が安心につながります。
注意障害の理解が高齢期の支えに

ADHDという特性を理解することは、高齢期における認知症への気づきにもつながります。不注意や記憶力の低下は単なる老化とは限らず、発達的な特徴の延長や病的な変化の可能性も含まれております。こうした視点を持つことで、本人の尊厳を保ち、より良い支援や対応を見出すことができるのです。




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