病気やケガで入院や手術が必要になると、思いがけず高額な医療費がかかることがあります。とくに家族の介護や長期入院が重なると、家計への影響は少なくありません。そんなときに知っておきたいのが「高額療養費制度」と「医療費控除」。それぞれの制度の違いや、併用できるかどうか、申請のポイントなどを、実際に使う場面をイメージしながらわかりやすく整理しました。
高額療養費制度と医療費控除、どう違う?

公的医療保険がカバーする
「高額療養費制度」
高額療養費制度は、健康保険を使って受けた医療の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超過分が払い戻される制度です。負担の割合(一般的には3割)をもとに計算され、収入に応じた限度額を上回る支払い分は後日返還されます。
税金の負担を軽減する「医療費控除」
医療費控除は、1年間(1月〜12月)に支払った医療費が10万円または所得の5%を超えると、所得税や住民税が軽減される制度です。対象は健康保険外の費用や通院の交通費なども含めることができ、確定申告で手続きを行います。
高額療養費制度の具体的な仕組み

限度額は年齢と所得によって違う
この制度では「年齢」と「所得区分」によって自己負担の上限が決まっています。たとえば70歳未満で年収が約370万円〜770万円の人なら、自己負担の上限は月に約8万円ほど。事前に「限度額適用認定証」をもらっておけば、病院の窓口での支払いも軽減されます。
差額ベッド代や食事代は対象外
入院時の個室利用でかかる差額ベッド代や、病院での食事代、パジャマのレンタル費などは、高額療養費制度の対象外です。あくまで「診療報酬」の範囲内だけが対象になるため、事前に確認が必要です。
医療費控除で申告できる費用の範囲は?

通院のための交通費も申告できる
医療費控除では、病院に通うための電車代やバス代なども対象になります。ただし、タクシー代は緊急時や妊婦の通院など、正当な理由があるときに限られます。また、子どもの通院に保護者が付き添った場合の交通費も申請可能です。
医薬品や市販薬も
対象になることがある
医師から処方された薬はもちろん、市販薬でも「治療目的」であれば対象になる場合があります。頭痛薬や湿布などの購入も、必要性が明確なら医療費として計上できます。美容目的や予防的な購入は対象外となるため、領収書の内容にも注意が必要です。
併用できる?二つの制度の関係

高額療養費と医療費控除は併用可能
高額療養費制度と医療費控除は、それぞれの制度の性質が違うため、同時に使うことができます。高額療養費制度で払い戻された分を差し引いた実際の自己負担額が、医療費控除の対象になります。医療費が多くかかった年には、どちらも忘れずに申請することが大切です。
実際の申請では何が必要?
高額療養費制度は、加入している健康保険(協会けんぽや組合健保など)に申請が必要です。医療費控除は確定申告時に「医療費控除の明細書」が求められます。日ごろから医療機関ごとの領収書や記録を整理しておくと安心です。
知っておきたい注意点

保険金や給付金は差し引かれる
入院給付金や医療保険で受け取った金額は、医療費控除の対象から除かれます。例えば20万円の入院費に対して10万円が保険で補てんされた場合、控除対象となるのは残りの10万円です。
確定申告はe-Taxが便利
最近はe-Taxを利用する人も増えてきました。マイナンバーカードやICカードリーダーがあれば、自宅からスムーズに申請できます。医療費明細もデータで提出できるため、紙の書類よりも手間が減ります。
申告のタイミングと見落としがちなポイント

過去5年までさかのぼって申告できる
医療費控除は、5年前までの分であれば遡って申告が可能です。忘れていた年があっても、領収書などが残っていれば今からでも間に合います。保管しておく習慣をつけておきましょう。
家族の医療費もまとめて申請できる
生計を一にする家族の医療費は、合算してひとりがまとめて申告することができます。子どもや配偶者、親の分も含めて、トータルの医療費が一定額を超えれば控除対象になります。
知っておくと安心な追加の制度

医療費通知を活用する
会社員や公務員には、健康保険組合から「医療費のお知らせ(医療費通知)」が届くことがあります。これを使えば、医療費控除の明細書代わりにもなります。記載内容と領収書が一致しているか確認するのがポイントです。
セルフメディケーション税制も検討を
医療費控除とは別に、特定の市販薬の購入額が年間1万2,000円を超えた場合に使える「セルフメディケーション税制」もあります。健康診断を受けていることなどの条件がありますが、対象の市販薬をよく使う人には有利な制度です。




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